ん》が、その場から動き出して、寺の外へ投げ飛ばされた。これが三度までくり返されたのである。その後ようやく、この聖い殉教者が戒律を破って、自分が長老のもとを立ち去ったために、たとえ偉大な功績があったにしても、長老の許可なくしては罪障を免れることができない、ということがわかった。そこで、呼び迎えられた長老がその戒律を解いたので、やっと埋葬を終えることができたということである。もちろんこれはほんの昔話であるが、ここについ近ごろの事実談がある。わが国の現代のある修道僧がアトスの地で修行をしていたが、突然、長老から、彼が聖地として、また穏かな避難所として、心の底から愛着していたアトスの地をすてて、聖地巡礼のためまずエレサレムにおもむき、それからロシアに引き返して、『北の端なるシベリアへ行け、おまえの住むべき場所はあちらなのだ、ここではない』と命ぜられた。思いがけない悲しみに打ちのめされた僧は、コンスタンチノープルへおもむき、全キリスト教大僧正のもとへ出頭して、自分の服従義務を解除してくれるように嘆願した。すると、大僧正の答えるには、単に大僧正たる自分にそれができないばかりでなく、いったん長老に課
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