途に困ってもてあますかと思えば、また時には恐ろしく無雑作に扱って、またたく間になくしてしまうのであった。フョードル・アレクサンドロヴィッチ・ミウーソフは、金やブルジョアらしい廉恥心にかけては、少なからず神経過敏なほうであったが、のちに、アレクセイを見慣れてしまってから、あるとき、彼について一つの名句を吐いたことがあった。
『この男はおそらく、世界じゅうにただ一人の、類のない人間かもしれない。あれはたとい人口百万ほどの不案内な都会の大広場へ、いきなりただ一人で、一文なしで打っちゃられても、けっして飢え死にをしたり、凍《こご》え死にをしたりすることはないだろう。すぐに人が食べものをくれたり、仕事の世話をしてくれたりするから。人がしてくれなくとも、自分ですぐどこかに職を見つける。しかもそれはあの人間にとって、骨の折れることでもなければ、屈辱でもなく、また世話をしてくれる人もそれを少しも苦にしないどころか、かえって満足に思うだろう』
 彼は中学の全課程を終えなかった。まだ卒業までにはまる一年あるのに、彼はいきなり、やっかいになっていた二人の婦人に向かって、ふとある用事が頭に浮かんできたので、父
前へ 次へ
全844ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中山 省三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング