問答を始めたのである。それは見たところ、きわめて質朴な僧らしかった。つまり身分も低くて、単純で危なげのない世界観をいだいてはいるが、それだけに頑固な信仰を持った僧の一人である。そのことばによれば、彼はずっと北の果てのオブドルスクにあって、わずか十人しか僧侶のいないという、貧しい聖シルヴェストル寺院からやって来たとのことであった。長老はこの僧を祝福して、いつでも都合のいいときに庵室をたずねてくれと言った。
「あなたはどうしてあんなことを思いきってなされるのでございますか」と僧はだしぬけに、非難するようにものものしい態度で、リーズを指しながら尋ねた。それは彼女の『治療』のことをほのめかしたのである。
「これについてはもちろん、まだ語るべき時ではありませんじゃ。少し軽くなったからとて、すっかりなおりきったわけではないし、それにまた、何か他に原因があるのかもしれませぬでな。しかし、たとえ何かききめがあったとしても、それは誰の力でもなく、ひとえに神様のおぼしめしじゃ。何もかも神意から出ているのじゃ。ときにぜひおたずねくだされ」と彼はつけたして僧に言った。「でないと、いつでもというわけにはまいりま
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