さん、わしはちょっと、ほんの数分間、中座させていただかねばなりませんのじゃ」彼は客に向かってこう言った。「実は、あなたがたより先に見えた御仁が待っておられるのでな。したが、あなたはなんにしても、嘘をつかぬがようござりますぞ」彼はフョードル・パーヴロヴィッチに向かって、にこやかな顔でこう言い足した。
彼は僧房を出て行こうとした。アリョーシャと道心とは階段を助けおろすために、その後から駆け出した。アリョーシャは息をはずませていた。彼はこの席をはずせるのが嬉しかったのだが、長老が少しも腹を立てないで、機嫌のいい顔をしているのが嬉しかったのだ。長老は自分を待ち構えている人たちを祝福するために、廊下をさして歩を運んだ。けれども、フョードル・パーヴロヴィッチは僧房の戸口で彼を引き止めた。
「あらたかな長老様!」と彼は思い入れたっぷりで叫んだ。「どうかもう一度お手を接吻させてくださりませ! 実際あなたはなかなか話せますよ、いっしょに暮らせますよ! あなたはわたくしがいつもこのように嘘をついて、道化たまねばかりしておるとお思いなされますか? ところが、わたくしはあなたを試してみるために、わざとあんな
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