たった今ディデロートのことで、あんなに腹を立てたミウーソフさんですよ。この人がわたくしに話して聞かせたのです」
「僕はけっして、そんな話をあなたにしたことはありませんよ。それに全体、僕はあなたとなんか、そんな話をしやしませんよ」
「なるほど、わしにお話しなされたことはありませんが、あんたが人中で話しておられた席に、わしは居合わせたというわけですよ。なんでも四年ばかり前のことでしたなあ。わしがこんなことをもちだしたのも、このおかしな話でもって、あんたがわしの信仰をぐらつかせなされたからですぜ、ミウーソフさん。あんたは何も御存じなしだが、わしはぐらついた信仰をいだいて帰りましたのじゃ。それ以来いよいよますます、ぐらついてきておるんですぜ。ほんとにミウーソフさん、あんたは大きな堕落の原因なんですぜ。これはもうディデロートどころの騒ぎじゃないて!」
 フョードル・パーヴロヴィッチは悲痛な声でまくしたてた。しかし一同は、またしても彼が芝居をしているということを、もうはっきりと見抜いていた。それでもミウーソフはひどく気を悪くした。
「なんてくだらないことだ、何もかもがくだらないことだ」と彼はつぶや
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