[#地から3字上げ]四十五年五月
薄荷酒
「思ひ出」の頁《ペエジ》に
さかづきひとつうつして、
ちらちらと、こまごまと、
薄荷酒を注《つ》げば、
緑はゆれて、かげのかげ、仄かなわが詩に啜り泣く、
そなたのこころ、薄荷ざけ。
思ふ子の額《ひたひ》に
さかづきそつと透かして、
ほれぼれと、ちらちらと、
薄荷酒をのめば、
緑は沁《し》みて、ゆめのゆめ、黒いその眸《め》に啜り泣く、
わたしのこころ、薄荷ざけ。
[#地から3字上げ]四十五年四月
白い月
わがかなしきソフイーに。
白い月が出た、ソフイー。
出て御覧、ソフイー。
勿忘草《わすれなぐさ》のやうな
あれあの青い空に、ソフイー。
まあ、何《な》んて冷《ひや》つこい
風《かぜ》だらうねえ、
出て御覧、ソフイー。
綺麗だよ、ソフイー。
いま、やつと雨がはれた――
緑いろの広い野原に、
露がきらきらたまつて、
日が薄《うつ》すりと光つてゆく、ソフイー。
さうして電話線の上にね、ソフイー。
びしよ濡れになつた白い小鳥が
まるで三味線のこまのやうに留つて、
つくねんと眺めてゐる、ソフイー。
どうしてあんなに泣いたの
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