Jとなり、
そそぐ夜《よ》にこそ。
おしろい花《ばな》のさくほとり、しんねこ[#「しんねこ」に傍点]の幽《かす》かなる
音《ね》を泣くべけれ。
放埒《はうらつ》のかなしみは
ひらき尽《つ》くせしかはたれの花の
いろの、にほひの、ちらんとし、ちりも了らぬあはひとか。
[#地から3字上げ]四十三年八月
紫陽花
かはたれに紫陽花《あぢさゐ》の見ゆるこそさみしけれ。
うらわかき盲人《まうじん》のいろ飽《あく》まで白く、
そのほとりに頬を寄《よ》するは――
かろくかさねし手のひらの弾《はぢ》く爪さき、それとなく
隆達《りゆうたつ》ぶしの唱歌など思ひ出づるはいとかなし。
誰かつくりし恋のみち、いかなる人も踏み迷ふ……
よしやわれにも情《なさけ》あれ。寮の日くれの、あ、もの憂《う》や、
何《なん》とせうぞの。蜩《かなかな》の金《きん》の線条《はりがね》顫《ふる》はす声も、
縁《えん》さへあらばまたの夕日《ゆふひ》にチレチレ
またの夕日に時雨《しぐ》るる。
おはぐろどぶのかなしみは
岐阜堤燈《ぎふぢやうちん》のかげうつる茶屋のうしろのながし湯の
石鹸《しやぼん》のにほひ、黴《かび》の花、
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