ネ、熱《あつ》い冷《つめ》たい手触《てさは》りの、
そなたも三味にきき惚れて身をうねらすや、やるせなく、……
平首《ひらくび》、竹に挟まれて、されどゆかしく、あどけなく、
無心に瞠《みは》る眼のいろは空と海との水あさぎ。
蝮よ小さい尾のさきの、匂の肌をつまぐれば、
毒ある汗はいきいきと、神経のごと細《こま》やかに、
朱の斑《ふ》なまめく褐《くり》と黄《き》の波斯《ペルシヤ》模様の美くしさ、
それか、怪しき淫《たは》れ女《め》の
閨《ねや》の麝香《じやかう》の息づかひ。

九月|午後《ひるすぎ》、日の光――
あれ三味が鳴る、きりぎりす、
飛んで死んだがましかいな。
[#地から3字上げ]四十四年九月
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雪と花火
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  夜ふる雪

蛇目《じやのめ》の傘《かさ》にふる雪《ゆき》は
むらさきうすくふりしきる。

空《そら》を仰《あふ》げば松《まつ》の葉《は》に
忍《しの》びがへしにふりしきる。

酒《さけ》に酔《よ》うたる足《あし》もとの
薄《うす》い光《ひかり》にふりしきる。

拍子木《ひやうしぎ
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