ン》しさうに、
きりきりと締《し》め直す黒い繻子《しゆす》の一筋《ひとすぢ》。
けだるげな三味線が
あれ、またもあのやうに、……
青みもつ目のふちの疲《つか》れから
なにを見るとなし熟視《みつ》むる
黒い瞳の深さ、
酸《す》いも甘いも噛みわけた
中年《ちゆうねん》の激しい衝動《シヨツク》……その底のさみしさ、つらさ、かなしさ。
黒い繻子の手ざはりが
きゆつ、きゆつと……
暑い、苦しい、くるしい日、
渋い鬼百合の赤さ、
鮮《あざや》かな臭《にほひ》の強さ、
湿《しめ》つた褐色《かちいろ》の花粉《くわふん》の
細《こま》かにちる……背後《うしろ》の床の間《ま》の大輪《たいりん》。
触《さは》る帯の繻子、やはらかな粉《こな》、
こころもきゆつきゆつと……
夏の日のさる河岸に
歌沢のこころいき。
ええまあ、
奈何《どう》すりや宜《い》いつてんだらうねえ。
[#地から3字上げ]四十三年七月
道化もの
ふうらりふらりと出て来《く》るは
ルナアパークの道化《だうけ》もの、
服《ふく》は白茶《しらちや》のだぶだぶと戯《おど》け澄ました身のまわり、
あつち向いちやふうらふら、
こつち
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