tもないひと躍り、……
Kappore! Kappore!
Amacha de Kappore!
Shiwocha de Kappore!
Yoito na! Yoi! Yoi!
緋のだんだらの尖帽《せんばう》に戯姿《おどけすがた》の道化師《だうけし》が
恐ろしきほど真白《まつしろ》く白粉《おしろい》つけた呆《とぼ》けがほ。
Oki …… no …… o …… o,
Kura …… ai …… no …… ni …… i, i,
Shira …… a …… Ho …… ga …… miyuru,
Are … wa … Ki …… no … Ku … u, u … ni,
Ha! Yoito kono korewa no sa!
A! a! a! a! a!
Mika …… n …… Bu …… u, u …… ne ……!
目も動かさず、白々《しらじら》と悪《わる》く澄《す》ましたくはせ者、
燥《はしや》ぎくるめく廉《やす》ものの
蓄音機から絞《しぼ》りだす囃《はやし》――黄色《きいろ》な甲高《かんだか》の
三味《しやみ》の笑《わらひ》に挑《いど》まれて、
戯《おど》けつくした身のひねり、
突拍子《とつぺし》もないひと躍り……
Ichi kake, Ni kake, San kake te,
Shi kake te, Go kake te, Hasyo kake te,
Kawai Okata wo ……
ふいと消えたる変化《へんげ》もの、
白粉《おしろい》の濃《こ》い、手の白い、素足《すあし》の白い、
唇《くちびる》の赤《あか》い沈黙《ちんもく》……
雨はふる……雨はふる……
陰気な黴くさい雨……長い雨……日ぐらしの雨……
気まぐれな不摂生《ふせつせい》のあとの痛《いた》ましい寂寥《さびしみ》、
幻影《イリユージヨン》の消え失せた雰囲気《ふんゐき》の暗《くら》い緑に、
むづ痒《か》ゆいやうな、気の抜けた、さみしい、弱い、せうことなしの
雨はふる……雨はふる……本能と神経の黄昏時《たそがれどき》。
しとしと[#「しとしと」に傍点]と、しとしと[#「しとしと」に傍点]と、
絶え間なく雨はふる、ふりそそぐ、葉から葉へ、しと[#「しと」に傍点]と滴《したた》る。
深緑《しんりよく》の闇《くら》い夜《よる》――ふる雨の黒いかがやき、
廃《すた》れたる橡《とち》の葉に古池に霊《たましひ》の底の秘密へ、
日がな終日《ひねもす》、昼間《ひるま》から、今日《けふ》の朝から、昨日《きのふ》から、遠い日の日の夕《ゆふべ》から、
ふりつづく長い長い憂欝《いううつ》の単音律《モノトニー》、
その青い雨……黴くさい雨……投げやりの雨……
辛気くさい静かな雨、かなしいやはらかな……生温《なまぬ》るい計画《たくらみ》の雨。
雨……雨……雨……
[#地から3字上げ]四十三年六月
葱の畑
寥《さび》しい霊《たましひ》が鳴《な》いて居る。
そこここの湿《しめ》つた黒《くろ》い土《つち》のなかで
昼《ひる》の虫《むし》が
幽《かす》かな、銀《ぎん》の調子《てうし》で鳴《な》いてゐる。
疲《つか》れた日光《につくわう》が
五時半《ごじはん》ごろの重《おも》い空気《くうき》と、
湯屋《ゆや》の曇硝子《くもりがらす》とに、
黄色《きいろ》く濡《ぬ》れて反射《はんしや》し、
新《あたら》しい臭《にほひ》のなかに弱《よわ》つてゆく。
寂《さび》しい霊《たましひ》が鳴《な》いてゐる。
毛《け》なみのいい樺《かば》と白の犬が
交《つる》んだまま葱《ねぎ》のなかにかくれてる。
眩《まぶ》しさうに首だけ覗《のぞ》いて
淀《よど》んだ瞳《ひとみ》に
何物《なにもの》をか恐《おそ》れてゐる。――
息《いき》がしづかに茎《くき》の尖頭《さき》を顫《ふる》はす。
何処《どこ》かで百舌《もず》が鳴きしきる。
疲《つか》れた、それでも放縦《ほしいまま》な
三十《さんじふ》過《す》ぎた病身《びやうしん》の女《をんな》らしい、
湯屋《ゆや》の硝子戸《がらすど》を出ると直《す》ぐ
石鹸《しやぼん》のにほひする身体《からだ》をかがめて
嬰児《あかんぼ》に小便《しつこ》をさしてる。
寥《さび》しい霊《たましひ》が鳴いてゐる。……
母《はは》の眼《め》と嬰児《あかんぼ》の眼《め》が
一様《いちやう》に白《しろ》い犬《いぬ》の耳《みみ》に注《そそ》がれる。
可愛《かあ》いいちんぽこから小便《しつこ》が出る。
その尿《ねう》と、濡《ぬ》れた西洋手拭《タヲル》と、束髪《そくはつ》と、
無意味《むいみ》な眼《め》つきと、白つぽい葱《ねぎ》の青《あを》みに、
しみじみと黄色《きいろ》な光《ひかり》がうつる。
しだいに反射《
前へ
次へ
全24ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北原 白秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング