tをうつはね幕《まく》の
遠《とほ》いこころにふりしきる。

思《おも》ひなしかは知《し》らねども
見《み》えぬあなたもふりしきる。

河岸《かし》の夜《よ》ふけにふる雪《ゆき》は
蛇目《じやのめ》の傘《かさ》にふりしきる。

水《みづ》の面《おもて》にその陰影《かげ》に
むらさき薄《うす》くふりしきる。

酒《さけ》に酔《よ》うたる足もとの
弱《よわ》い涙《なみだ》にふりしきる。

声《こゑ》もせぬ夜《よ》のくらやみを
ひとり通《とほ》ればふりしきる。

思ひなしかはしらねども
こころ細かにふりしきる。

蛇目《じやのめ》の傘にふる雪は
むらさき薄くふりしきる。

  柳の佐和利

ほの青《あを》い雪《ゆき》のふる夜《よ》に、
電車《でんしや》みちを、
酔《よ》つて、酔《よ》つて、酔《よ》つぱらつてさ、ひよろひよろと、
ふらふらと、凭《もた》れかかれば、硝子戸《がらすど》に。
〔Yo_i! …… Yo_i! …… Yo_itona! ……〕

ほの青《あを》い雪《ゆき》はふり、
店《みせ》のなかではしんみりと柳《やなぎ》の佐和利《さわり》、
酔《よ》つて、酔《よ》つて、酔《よ》つぱらつてさ、ふらふらと、
ひよろひよろと首《くび》をふれば太棹《ふとざを》が……
〔Yo_i! …… Yo_i! …… Yo_itona! ……〕

ほの青《あを》い雪《ゆき》の夜《よ》の
蓄音機《ちくおんき》とは知《し》つたれど、きけばこの身《み》が泣《な》かるる。
酔《よ》つて酔《よ》つて酔《よ》つぱらつてさ、ひよろひよろと、
ふらふらと投《な》げてかかれば、その咽喉《のど》が……
〔Yo_i! …… Yo_i! …… Yo_itona! ……〕

ほの青《あを》い雪《ゆき》のふる
人《ひと》ひとり通《とほ》らぬこの雪《ゆき》に、まあ何《なん》とした、
酔《よ》つて酔《よ》つて酔《よ》つぱらつてさ、ふらふらと、
ひよろひよろと、しやくりあぐれば誰やらが、
〔Yo_i! …… Yo_i! …… Yo_itona! ……〕
[#地から3字上げ]四十四年一月

  春の鳥

鳴きそな鳴きそ春の鳥、
昇菊の紺と銀との肩ぎぬに。
鳴きそな鳴きそ春の鳥、
歌沢《うたざは》の夏のあはれとなりぬべき
大川の金《きん》と青とのたそがれに。
鳴きそな鳴きそ春の鳥。
[#地から3字上げ]四十三年四月

  
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