驕t――ふる雨の黒いかがやき、
廃《すた》れたる橡《とち》の葉に古池に霊《たましひ》の底の秘密へ、
日がな終日《ひねもす》、昼間《ひるま》から、今日《けふ》の朝から、昨日《きのふ》から、遠い日の日の夕《ゆふべ》から、
ふりつづく長い長い憂欝《いううつ》の単音律《モノトニー》、
その青い雨……黴くさい雨……投げやりの雨……
辛気くさい静かな雨、かなしいやはらかな……生温《なまぬ》るい計画《たくらみ》の雨。
雨……雨……雨……
[#地から3字上げ]四十三年六月
葱の畑
寥《さび》しい霊《たましひ》が鳴《な》いて居る。
そこここの湿《しめ》つた黒《くろ》い土《つち》のなかで
昼《ひる》の虫《むし》が
幽《かす》かな、銀《ぎん》の調子《てうし》で鳴《な》いてゐる。
疲《つか》れた日光《につくわう》が
五時半《ごじはん》ごろの重《おも》い空気《くうき》と、
湯屋《ゆや》の曇硝子《くもりがらす》とに、
黄色《きいろ》く濡《ぬ》れて反射《はんしや》し、
新《あたら》しい臭《にほひ》のなかに弱《よわ》つてゆく。
寂《さび》しい霊《たましひ》が鳴《な》いてゐる。
毛《け》なみのいい樺《かば》と白の犬が
交《つる》んだまま葱《ねぎ》のなかにかくれてる。
眩《まぶ》しさうに首だけ覗《のぞ》いて
淀《よど》んだ瞳《ひとみ》に
何物《なにもの》をか恐《おそ》れてゐる。――
息《いき》がしづかに茎《くき》の尖頭《さき》を顫《ふる》はす。
何処《どこ》かで百舌《もず》が鳴きしきる。
疲《つか》れた、それでも放縦《ほしいまま》な
三十《さんじふ》過《す》ぎた病身《びやうしん》の女《をんな》らしい、
湯屋《ゆや》の硝子戸《がらすど》を出ると直《す》ぐ
石鹸《しやぼん》のにほひする身体《からだ》をかがめて
嬰児《あかんぼ》に小便《しつこ》をさしてる。
寥《さび》しい霊《たましひ》が鳴いてゐる。……
母《はは》の眼《め》と嬰児《あかんぼ》の眼《め》が
一様《いちやう》に白《しろ》い犬《いぬ》の耳《みみ》に注《そそ》がれる。
可愛《かあ》いいちんぽこから小便《しつこ》が出る。
その尿《ねう》と、濡《ぬ》れた西洋手拭《タヲル》と、束髪《そくはつ》と、
無意味《むいみ》な眼《め》つきと、白つぽい葱《ねぎ》の青《あを》みに、
しみじみと黄色《きいろ》な光《ひかり》がうつる。
しだいに反射《
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