の路次をぬけて、汚ないある街の某《なにがし》と云ふ素人下宿に辿りついた。そうして冷たい女主人の顔を見、友人の誇らしい浮薄な風采を見、牢獄《ひとや》同様に仕切られた狭い一室に、疲れはてた身体《からだ》を休めた時、つくづく私は何だか都会の幻影に欺かれてゐたやうな気がした。
その後、私は寥しくなると何時も新橋停車場に出かけては五年前に経験した都会の入口の臭気と感覚とを新たに嗅いでくる。而して身も霊《たましひ》も顫へながらなほ新しい官能の刺戟を求めたかの時のみづみづしい心をあちらこちらと拾ふてあるくのが何時となしに私の習慣となつた。
底本:「日本の名随筆別巻95・明治」作品社
1999(平成11)年1月25日第1刷発行
底本の親本:「白秋全集 第三五巻」岩波書店
1987(昭和62)年11月
入力:ふろっぎぃ
校正:門田裕志
2002年1月11日公開
2003年7月27日修正
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