り、楽しい祭の前触が異様な道化の服装をして、喇叭を鳴らし拍子木を打ちつつ、明日の芝居の芸題を面白をかしく披露しながら町から町へと巡り歩く。
 祭は町から町へ日を異にして準備される、さうして彼我の家庭を挙げて往来しては一夕の愉快なる団欒に美しい懇親の情を交すのである。加之、識る人も識らぬ人も酔うては無礼の風俗をかしく、朱欒《ざぼん》の実のかげに幼児と独楽《こま》を廻はし、戸ごとに酒をたづねては浮かれ歩るく。祭のあとの寂しさはまた格別である。野は火のやうな櫨紅葉に百舌がただ啼きしきるばかり、何処からともなく漂浪《さすら》うて来た傀儡師《くぐつまはし》の肩の上に、生白い華魁《おゐらん》の首が、カツクカツクと眉を振る物凄さも、何時の間にか人々の記憶から掻き消されるやうに消え失せて、寂しい寂しい冬が来る。


 要するに柳河は廃市である。とある街の辻に古くから立つてゐる円筒状の黒い広告塔に、折々、西洋奇術の貼札が紅いへらへら踊の怪しい景気をつけるほかには、よし今のやうに、アセチリン瓦斯を点け、新たに電気燈《でんき》をひいて見たところで、格別、これはという変化も凡ての沈滞から美しい手品を見せるやう
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