《すくひ》よぶとも、
ああ遂に詮《せん》業《すべ》なけむ。いざさらば
接吻《くちつけ》の妙《たへ》なる蜜《みつ》に、
女子《をみなご》の葡萄の息《いき》に、
いで『ころべ』いざ歌へ、わかうどよ。


  嗅煙艸

『あはれ、あはれ、深江《ふかえ》の媼《おば》よ。
髪も頬《ほ》も煙艸色《たばこいろ》なる、
棕櫚《しゆろ》の根に蹲《うづく》む媼《おば》よ。
汝《な》が持てる象牙《ざうげ》の壺《つぼ》は
また薫《くゆ》る褐《くり》なる粉《こな》は
何ぞ。また、せちに鼻つけ
涙垂れ、あかき眼《め》擦《す》るは。』
このときに渡《わたり》の媼《おうな》
呻《によ》ぶらく。『わが葡萄牙《ほるとがる》、
こを嗅《か》ぎてわかきは思ふ。』
『さらば、汝《な》は。』『責《せ》めそ、さな、さな、
養生《やしなひ》を骸《から》はただ欲《ほ》れ。
さればこそ、この嗅煙艸《かぎたばこ》。』


  鵠

わかうどなゆめ近よりそ、
かのゆくは邪宗《じやしゆう》の鵠《くぐひ》、
日のうちに七度《ななたび》八度《やたび》
潮《うしほ》あび化粧《けはひ》すといふ
伴天連《ばてれん》の秘《ひそ》の少女《をとめ》ぞ。
地になびく髪には蘆薈《ろくわい》、
嘴《はし》にまたあかき実《み》を塗《ぬ》る
淫《みだ》らなる鳥にしあれば、
絶えず、その真白羽《ましろは》ひろげ
乳香《にふかう》の水したたらす。
されば、子なゆめ近よりそ。
視よ、持つは炎《ほのほ》か、華《はな》か、
さならずば実《み》の無花果《いちじゆく》か、
兎《と》にもあれ、かれこそ邪法《じやはふ》。
わかうどなゆめ近よりそ。


  日ごとに

日ごとにわかき姿《すがた》して
日ごとに歌ふわが族《ぞう》よ、
日ごとに紅《あか》き実《み》の乳房《ちぶさ》
日ごとにすてて漁《あさ》りゆく。


  黄金向日葵

あはれ、あはれ、黄金《こがね》向日葵《ひぐるま》
汝《みまし》また太陽《ひ》にも倦《あ》きしか、
南国《なんごく》の空の真昼《まひる》を
かなしげに疲《つか》れて見ゆる。


  一※[#「火+主」、第3水準1−87−40]

香炉《かうろ》いま
一※[#「火+主」、第3水準1−87−40]《いつす》のかをり。
 あはれ、火はこころのそこに。

さあれ、その
一※[#「火+主」、第3水準1−87−40]《いつす》のけむり、
 かの空《そら》
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