et の陽光に輝きわたれるに驚くならむ。そは Velazquez の灰色より俄に現れいでたる午后の日なりき。あはれ日はやうやう暮れてぞゆく。金緑に紅薔薇を覆輪にしたりけむ Monet の波の面も青みゆき、青みゆき、ほのかになつかしくはた悲しき Cafin の夕は来る。燈の薄黄は Whistler の好みの色とぞ。月出づ。Pissarro のあをき衢を Verlaine の白月の賦など口荒みつつ過ぎゆくは誰が家の子ぞや。[#地から1字上げ]太田正雄
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冷めがたの印象
あわただし、旗ひるがへし、
朱《しゆ》の色の駅逓《えきてい》馬車《ぐるま》跳《をど》りゆく。
曇日《くもりび》の色なき街《まち》は
清水《しみづ》さす石油《せきゆ》の噎《むせび》、
轢《し》かれ泣く停車場《ていしやば》の鈴《すゞ》、溝《みぞ》の毒《どく》、
昼の三味《しやみ》、鑢《やすり》磨《す》る歌、
茴香酒《アブサン》の青み泡だつ火の叫《さけび》、
絶えず眩《くる》めく白楊《やまならし》、遂に疲れて
マンドリン奏《かな》でわづらふ風の群《むれ》、
あなあはれ、そのかげに乞食《かたゐ》ゆきかふ。
くわと来り、燃《も》えゆく旗は
死に堕《お》つる、夏の光のうしろかげ。
灰色の亜鉛《とたん》の屋根に、
青銅《せいどう》の擬宝珠《ぎぼしゆ》の錆《さび》に、
また寒き万象《ものみな》の愁《うれひ》のうへに、
爛《たゞ》れ弾《ひ》く猩紅熱《しやうこうねつ》の火の調《しらべ》、
狂気《きやうき》の色と冷《さ》めがたの疲労《つかれ》に、今は
ひた嘆《なげ》く、悔《くい》と、悩《なやみ》と、戦慄《をのゝき》と。
あかあかとひらめく旗は
猥《みだ》らなるその最終《いやはて》の夏の曲《きよく》。
あなあはれ、あなあはれ、
あなあはれ、光消えさる。
[#地付き]四十年十一月
赤子
赤子啼く、
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急《はや》き瀬《せ》の中《うち》。
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壁重き女囚《ぢよしう》の牢獄《ひとや》、
鉄《てつ》の門《もん》、
淫慾《いんよく》の蛇の紋章《もんしやう》
くわとおびえ、
水に、落日《いりひ》に
照りかへし、
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黄ばむひととき。
[#ここで字下げ終わり]
赤子《あかご》啼《な》く、
[#ここから2字下げ]
急《はや》き瀬《せ》の中
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