浴sをんな》の吐息《といき》
あはれその愁《うれひ》如《な》し、しぶく噴水《ふきあげ》
そことなう節《ふし》ゆるうゆらゆるなべに、
いつしかとほのめきぬ月の光も。
その空に、その苑《その》に、ほのの青みに
静かなる欷歔《すすりなき》泣きもいでつつ、
いづくにか、さまだるる愛慕《あいぼ》のなげき。
やはらかきほの熱《ほて》る女の足音《あのと》
あはれそのほめき如《な》し、燃《も》えも生《あ》れゆく
ゆめにほふ心音《しんのん》のうつつなきかな。
大理石《なめいし》の身の白《しろ》み、面《おも》もほのかに、
ひらきゆくその眼《め》ざし、なかば閉ぢつつ、
ゆめのごと空|仰《あふ》ぎ、いまぞ見惚《みほ》るる。
色わかき夜《よる》の星、うるむ紅《くれなゐ》。
[#地付き]四十一年七月
窓
かかる窓ありとも知らず、昨日《きのふ》まで過《す》ぎし河岸《かはきし》。
今日《けふ》は見よ、
色赤き花に日の照り、かなしくも依依児《ええてる》匂ふ。
あはれまた病《や》める Piano《ピアノ》 も……
[#地付き]四十一年九月
昨日と今日と
わかうどのせはしさよ。
さは昨日《きのふ》世をも厭ひて重格魯密母《ぢゆうクロヲム》求《と》めも泣きしか、
今朝《けさ》ははや林檎吸ひつつ霧深き河岸路《かしぢ》を辿る。
歌楽し、鳴らす木履《きぐつ》に……
[#地付き]四十一年十一月
わかき日
『かくまでも、かくまでも、
わかうどは悲しかるにや。』
『さなり、女《をみな》、
わかき日には、
ましてまた才《さい》ある身には。』
[#地付き]四十一年十一月
[#改丁]
朱の伴奏
凡て情緒也。静かなる精舎の庭にほのめきいでて紅の戦慄に盲ひたる※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]オロンの響はわが内心の旋律にして、赤き絶叫のなかにほのかに啼けるこほろぎの音はこれ亦わが情緒の一絃によりて密かに奏でらるる愁也。なげかひ也。その他おほむね之に倣ふ。
[#改ページ]
謀坂
ひと日、わが精舎《しやうじや》の庭《には》に、
晩秋《おそあき》の静かなる落日《いりひ》のなかに、
あはれ、また、薄黄《うすぎ》なる噴水《ふきあげ》の吐息《といき》のなかに、
いとほのに※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]オロンの、その絃《いと》の、
その夢の、哀愁《かなしみ》の、いとほのにうれひ泣《な
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