ういった。
「わたしの糸で、わたしの針で、
わたしがつくろ、経帷子をつくろ」
「だァれがしるす、戒名《かいみょう》をしるす」
「そォれはわたしよ」ひばりがそういった。
「あかるいならば、くれないならば、
わたしがしるそ、戒名をしるそ」
「だァれがたつか、お葬式《ともらい》にたつか」
「そォれはわたしよ」おはとがそういった。
「葬《ともら》ってやろよ、かわいそなものを、
わたしがたとうよ、お葬式にたとうよ」
「だァれがほるか、お墓の穴を」
「そォれはわたしよ」ふくろがそういった。
「わたしの鏝《こて》で、ちいさな鏝で、
わたしがほろよ、お墓の穴を」
「だァれがなるぞ、お坊《ぼう》さんになるぞ」
「そォれはわたしよ」白嘴《しらはし》がらすがそういった。
「経本《きょうほん》もって、小本《こほん》をもって、
わたしがなろぞ、お坊さんになろぞ」
「だァれがならす、お鐘をならす」
「そォれはわたしよ」おうしがこういった。
「わたしはひける、力がござる、
わたしがならそ、お鐘をならそ」
空《そォら》の上からみんなの小鳥が、
ためいきついたりすすりなきしたり、
みんなみんなきいた、なりだす鐘を、
かわいそなこまどりのお葬式《ともらい》の鐘を。
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お月夜
へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。
ねこが胡弓《こきゅう》ひいた、
めうしがお月さまとびこえた、
こいぬがそれみてわらいだす、
お皿がおさじをおっかけた。
へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。
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天竺《てんじく》ねずみのちびすけ
天竺《てんじく》ねずみのちびすけは、
ちびだからふとっちゃいなかった。
いつもあんよでおあるきで、
たべるときゃ断食《だんじき》ゃいたさない。
さてそこらからかけてでりゃ、
けっしてそこにはもういない。
きけば、かけてるそのときは、
どっちみちじっとしちゃいないそだ。
キイキイなくのは常々《ふんだん》だ、めちゃくちゃあばれもたまたまだ。
それがさわいでわめくときゃ、けっしてだまっちゃいなかった。
たとえねこからおそわらなくとも、
はつかねずみがただのねずみでないのは御承知だ。
ところでたしかなうわさだが、
ある日、ひょっくり気がふれて、奇態な死に方した話。
とても勘《かん》のいい、金棒引《かなぼうひ》きの人たちは、
きゃつめおっ死《ち》んだで、いきてるわけないぞといっている。
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木のぼりのおさる
木のぼりのおさるさん、
おちたときゃ、そのときゃおちていた。
石《いィし》の上《うゥえ》のつんがらす、
飛《た》ったときゃ、そこらにゃ影もない。
りんごかじりの婆《ばば》おかみ、
二つたべたときゃ、一対たべていた。
水車場《すいしゃば》がよいの小荷駄《こにだ》うま、
てくるときゃ、じっとたっちゃいなかった。
拇指《おやゆび》ちょんぎったうしころし、
けがしたそのときゃ、血をだした。
かけっこしてゆくお供《ォとも》さん、
はやがけするときゃ、かけあしだ。
おくつそそくるくつなおし、
つくろっちゃったそのときゃ、しあげてた。
ろうそくつくるがろうそく屋、
型からひっぱいだときゃ、手にもってた。
スペインさしていった艦隊《かァんたい》、
かえったときゃ、またぞろやってきてた。
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くるみ
ちいさな緑のお家《うち》がひとつ。
ちいさな緑のお家の中に、
ちいさな金茶のお家がひとつ。
ちいさな金茶のお家の中に、
ちいさな黄色いお家がひとつ。
ちいさな黄色いお家の中に、
ちいさな白《しィろ》いお家がひとつ。
ちいさな白《しィろ》いお家の中に、
ちいさな心《ハアト》がただひィとつ。
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ボンベイのふとっちょ
ひとりふとっちょがボンベイにござった。
ある日、日なたでたばこのんでござった。
そこへ、ついときたはしぎという小鳥よ、
パイプひっさらってまたふいととんじまう。
そこでじれました、ボンベイのふとっちょ。
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六ペンスの歌
うたえうたえ、六ペンスの歌を。
衣嚢《かくし》にゃごほうびの麦がある。
二十四匹《にじゅうしひき》の黒つぐみ、
焙《ほう》じこまれて、パイの中。
パイがはがれたそのときに、
すぐに小鳥がうたいだす。
もともと王さまにそなえます
きれいなお皿じゃ、そりゃないか。
『王さまは会計院で、
お金の御勘定《かんじょう》。
おきさきゃお居間で、
パンと蜜《みつ》をめしあがり。
女中さんはお庭で、
衣裳《いしょう》をせっせとほしている。
そこへ小鳥が一羽とんでまいって、
つんとはじきました、女中さんのお鼻』
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一時
いっちく、たっちく、おうやおや。
ねずみが時
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