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妹《いも》が家《いへ》も継《つ》ぎて見ましを大和《やまと》なる大島《おほしま》の嶺《ね》に家《いへ》もあらましを 〔巻二・九一〕 天智天皇
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 天智天皇が鏡王女《かがみのおおきみ》に賜わった御製歌である。鏡王女は鏡王の女、額田王の御姉で、後に藤原|鎌足《かまたり》の嫡妻《ちゃくさい》となられた方とおもわれるが、この御製歌はそれ以前のものであろうか、それとも鎌足薨去(天智八年)の後、王女が大和に帰っていたのに贈りたもうた歌であろうか。そして、「大和なる」とことわっているから、天皇は近江に居給うたのであろう。「大島の嶺」は所在地不明だが、鏡王女の居る処の近くで相当に名高かった山だろうと想像することが出来る。(後紀大同三年、平群《へぐり》朝臣の歌にあるオホシマあたりだろうという説がある。さすれば現在の生駒郡平群村あたりであろう。)
 一首の意は、あなたの家をも絶えずつづけて見たいものだ。大和のあの大島の嶺にあなたの家があるとよいのだが、というぐらいの意であろう。
「見ましを」と「あらましを」と類音で調子を取って居り
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