歌であるが作者の名を明記してない。併《しか》し作者は皇子・皇女にあらせられる御方のようで、天皇の御姉、御名部皇女《みなべのひめみこ》(天智天皇皇女、元明天皇御姉)の御歌と推測するのが真に近いようである。
「飛ぶ鳥の」は「明日香《あすか》」にかかる枕詞。明日香(飛鳥)といって、なぜ藤原といわなかったかというに、明日香はあの辺の総名で、必ずしも飛鳥浄御原宮《あすかのきよみはらのみや》(天武天皇の京)とのみは限局せられない。そこで藤原京になってからも其処と隣接している明日香にも皇族がたの御住いがあったものであろう。この歌の、「君」というのは、作者が親まれた男性の御方のようである。
この歌も、素直に心の動くままに言葉を使って行き、取りたてて技巧を弄《ろう》していないところに感の深いものがある。「置きて」という表現は、他にも、「大和を置きて」、「みやこを置きて」などの例もあり、注意すべき表現である。結句の、「見えずかもあらむ」の「見えず」というのも、感覚に直接で良く、この類似の表現は万葉に多い。
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うらさぶる情《こころ》さまねしひさかたの天《
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