ぶさまが目に見えるようである。そういう朗かで美しく楽しい歌である。然《し》かも一首に「らむ」という助動詞を二つも使って、流動的歌調を成就《じょうじゅ》しているあたり、やはり人麿一流と謂《い》わねばならない。「玉裳」は美しい裳ぐらいに取ればよく、一首に親しい感情の出ているのは、女官中に人麿の恋人もいたためだろうと想像する向もある。
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潮騒《しほさゐ》に伊良虞《いらご》の島辺《しまべ》榜《こ》ぐ船《ふね》に妹《いも》乗《の》るらむか荒《あら》き島回《しまみ》を 〔巻一・四二〕 柿本人麿
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前の続きである。「伊良虞《いらご》の島」は、三河|渥美《あつみ》郡の伊良虞崎あたりで、「島」といっても崎でもよいこと、後出の「加古の島」のところにも応用することが出来る。
一首は、潮が満ちて来て鳴りさわぐ頃、伊良虞の島近く榜《こ》ぐ船に、供奉してまいった自分の女も乗ることだろう。あの浪の荒い島のあたりを、というのである。
この歌には、明かに「妹」とあるから、こまやかな情味があって余所余所《よそよそ》しくない。そして、この「妹
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