はり遊びし磯を見れば悲しも」(巻九・一七九六)、「古に妹と吾が見しぬばたまの黒牛潟《くろうしがた》を見ればさぶしも」(同・一七九八)、「玉津島《たまつしま》磯の浦回《うらみ》の真砂《まさご》にも染《にほ》ひて行かな妹が触りけむ」(同・一七九九)というので、いずれも哀深いものである。
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巻第十

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ひさかたの天《あめ》の香具山《かぐやま》このゆふべ霞《かすみ》たなびく春《はる》立《た》つらしも 〔巻十・一八一二〕 柿本人麿歌集
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 春雑歌、人麿歌集所出である。この歌は、香具山を遠望したような趣である。少くも歌調からいえば遠望であるが、香具山は低い山だし、実際は割合に近いところ、藤原京あたりから眺めたのであったかも知れない。併し一首全体は伸々としてもっと遠い感じだから、現代の人はそういう具合にして味ってかまわぬ。それから、「この夕べ」とことわっているから、はじめて霞がかかった、はじめて霞が注意せられた趣である。春立つというのは暦の上の立春というのよりも、春が来るというように解していいだろう。
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