った。史記周本紀に、「飛鳥其翼を以て之を覆薦《ふせん》す」の例がある。「武庫の浦の入江の渚鳥《すどり》羽ぐくもる君を離れて恋に死ぬべし」(巻十五・三五七八)、「大船に妹乗るものにあらませば羽ぐくみもちて行かましものを」(同・三五七九)があり、新羅《しらぎ》に行く使者等の歌だから同じような心持があらわれている。なお、「天《あま》飛ぶや雁のつばさの覆羽《おほひば》の何処《いづく》漏りてか霜の零《ふ》りけむ」(巻十・二二三八)の例がある。
母親がひとり子の遠い旅を思う心情は一とおりでないのだが、天の群鶴にその保護を頼むというのは、今ならば文学的の技巧を直ぐ聯想《れんそう》するし、実際また詩的に表現しているのである。けれども当時の人々は吾々の今感ずるよりも、もっと自然に直接にこういうことを感じていたものに相違ない。それは万葉の他の歌を見ても分かるし、物に寄する歌でも、序詞のある歌でも、吾等の考えるよりももっと直接に感じつつああいう技法を取ったものに相違ない。そこで此歌でも、毫《ごう》もこだわりのない純粋な響を伝えているのである。もの云いに狐疑《こぎ》が無く不安が無く、子をおもうための願望を、
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