い。御製は、調べ高くして潤《うるお》いがあり、豊かにして弛《たる》まざる、万物を同化|包摂《ほうせつ》したもう親愛の御心の流露《りゅうろ》であって、「いねにけらしも」の一句はまさに古今無上の結句だとおもうのである。第四句で、「今夜は鳴かず」と、其処に休止を置いたから、結句は独立句のように、豊かにして逼《せま》らざる重厚なものとなったが、よく読めばおのずから第四句に縷《いと》の如くに続き、また一首全体に響いて、気品の高い、いうにいわれぬ歌調となったものである。「いねにけらしも」は、親愛の大御心であるが、素朴・直接・人間的・肉体的で、後世の歌にこういう表現のないのは、総べてこういう特徴から歌人の心が遠離して行ったためである。此御歌は万葉集中最高峰の一つとおもうので、その説明をしたい念願を持っていたが、実際に当ると好い説明の文を作れないのは、この歌は渾一体《こんいったい》の境界にあってこまごましい剖析《ぼうせき》をゆるさないからであろうか。
此歌の第三句、旧板本「鳴鹿之」となっているから、訓は「ナクシカノ」である。然るに古鈔本(類・神・西・温・矢・京)には、「之」の字が「者」となって居り、
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