、「安積香《あさか》山影さへ見ゆる山井《やまのゐ》の浅き心を吾が念《も》はなくに」(巻十六・三八〇七)がある。
○
[#ここから5字下げ]
平常《よのつね》に聞《き》くは苦《くる》しき喚子鳥《よぶこどり》こゑなつかしき時《とき》にはなりぬ 〔巻八・一四四七〕 大伴坂上郎女
[#ここで字下げ終わり]
大伴坂上郎女《おおとものさかのうえのいらつめ》が、天平《てんぴょう》四年三月|佐保《さお》の宅《いえ》で詠んだ歌である。普段には、身につまされて寧《むし》ろ苦しいくらいな喚子鳥の声も、なつかしく聞かれる春になった、というので、奇もなく鋭いところもないが、季節の変化に対する感じも出ており、春の女心に触れることも出来るようなところがある。「時にはなりぬ」だけで詠歎《えいたん》のこもることは既《すで》にいった。佐保の宅というのは、郎女《いらつめ》の父大伴|安麿《やすまろ》の宅である。「春日なる羽易《はがひ》の山ゆ佐保の内へ鳴き行くなるは誰《たれ》喚子鳥」(巻十・一八二七)、「答へぬにな喚び響《とよ》めそ喚子鳥佐保の山辺を上《のぼ》り下《くだ》りに」(同・一八二八)、「卯
前へ
次へ
全531ページ中310ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング