「伏し起きて」では意味を成さない。この歌もこれだけの複雑なことを云っていて、相当の情調をしみ出でさせるのは、先ず珍とせねばなるまい。
[#改ページ]

巻第六

           ○

[#ここから5字下げ]
山《やま》高《たか》み白木綿花《しらゆふはな》に落《お》ちたぎつ滝《たぎ》の河内《かふち》は見《み》れど飽《あ》かぬかも 〔巻六・九〇九〕 笠金村
[#ここで字下げ終わり]
 元正《げんしょう》天皇、養老七年夏五月芳野離宮に行幸あった時、従駕の笠金村《かさのかなむら》が作った長歌の反歌である。「白木綿」は栲《たえ》、穀《かじ》(穀桑楮)の皮から作った白布、その白木綿《しらゆう》の如くに水の流れ落つる状態である。「河内《かふち》」は、河から繞《めぐ》らされている土地をいう。既に人麿の歌に、「たぎつ河内《かふち》に船出《ふなで》するかも」(巻一・三九)がある。また、「見れど飽かぬかも」という結句も、人麿の、「珠水激《いはばし》る滝の宮処《みやこ》は、見れど飽かぬかも」(巻一・三六)のほか、万葉には可なりある。
 この一首は、従駕の作であるから、謹んで作っているので、その歌調もおの
前へ 次へ
全531ページ中250ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング