理でないことを示している。
この歌は※[#「覊」の「馬」に代えて「奇」、第4水準2−88−38]旅中の感懐であって、風光の移るにつれて動く心の儘を詠じ、歌詞それに伴うてまことに得難い優れた歌となった。そして、「心|恋《こほ》しき加古の島」あたりの情調には、恋愛にかようような物懐しいところがあるが、人麿は全体としてそういう抒情的方面の豊かな歌人であった。
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ともしびの明石《あかし》大門《おほと》に入《い》らむ日《ひ》や榜《こ》ぎ別《わか》れなむ家《いへ》のあたり見《み》ず 〔巻三・二五四〕 柿本人麿
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人麿作、※[#「覊」の「馬」に代えて「奇」、第4水準2−88−38]旅八首中の一。これは西の方へ向って船で行く趣である。
一首の意は、〔ともしびの〕(枕詞)明石《あかし》の海門《かいもん》を通過する頃には、いよいよ家郷の大和《やまと》の山々とも別れることとなるであろう。その頃には家郷の大和も、もう見えずなる、というのである。「入らむ日や」の「や」は疑問で、「別れなむ」に続くのである。
歌柄の極めて大きいもの
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