の御詞であった。そして此歌に於てはじめて吾等は皇子の御詞に接するのだが、それは皇女の御墓についてであった。そして血の出るようなこの一首を作られたのであった。結句の「塞なさまくに」は強く迫る句である。
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秋山《あきやま》の黄葉《もみぢ》を茂《しげ》み迷《まど》はせる妹《いも》を求《もと》めむ山道《やまぢ》知らずも 〔巻二・二〇八〕 柿本人麿
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これは人麿が妻に死なれた時|詠《よ》んだ歌で、長歌を二つも作って居り、その反歌の一つである。この人麿の妻というのは軽《かる》の里《さと》(今の畝傍町大軽和田石川五条野)に住んでいて、其処に人麿が通ったものと見える。この妻の急に死んだことを使の者が知らせた趣《おもむき》が長歌に見えている。
一首は、自分の愛する妻が、秋山の黄葉《もみじ》の茂きがため、その中に迷い入ってしまった。その妻を尋ね求めんに道が分からない、というのである。
死んで葬られることを、秋山に迷い入って隠れた趣に歌っている。こういう云い方は、現世の生の連続として遠い処に行く趣にしてある。当時は未だそう信じ
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