ろうか。「み空ゆく月読《つくよみ》男《をとこ》ゆふさらず目には見れども寄るよしもなし」(巻七・一三七二)、「人言《ひとごと》をしげみこちたみ我背子《わがせこ》を目には見れども逢ふよしもなし」(巻十二・二九三八)の歌があるが、皆民謡風の軽さで、この御歌ほどの切実なところが無い。
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人《ひと》は縦《よ》し思《おも》ひ止《や》むとも玉《たま》かづら影《かげ》に見《み》えつつ忘《わす》らえぬかも 〔巻二・一四九〕 倭姫皇后
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これには、「天皇崩じ給ひし時、倭太后《やまとのおほきさき》の御作歌一首」と明かな詞書《ことばがき》がある。倭太后は倭姫皇后のことである。
一首の意は、他の人は縦《たと》い御崩《おかく》れになった天皇を、思い慕うことを止めて、忘れてしまおうとも、私には天皇の面影がいつも見えたもうて、忘れようとしても忘れかねます、というのであって、独詠的な特徴が存している。
「玉かづら」は日蔭蔓《ひかげかずら》を髪にかけて飾るよりカケにかけ、カゲに懸けた枕詞とした。山田博士は葬儀の時の華縵《けまん》として単純な枕
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