りさけ見れば」といって直ぐ「大王の御寿は」と続けている。これだけでみると、吉凶を卜して吉の徴でも得たように取れるかも知れぬが、これはそういうことではあるまい。此処に常識的意味の上に省略と単純化とがあるので、此は古歌の特徴なのである。散文ならば、蒼天の無際無極なるが如く云々と補充の出来るところなのである。この御歌の下の句の訓も、古鈔本では京都大学本がこう訓み、近くは略解《りゃくげ》がこう訓んで諸家それに従うようになったものである。

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青旗《あをはた》の木幡《こはた》の上を通《かよ》ふとは目《め》には見《み》れども直《ただ》に逢《あ》はぬかも 〔巻二・一四八〕 倭姫皇后
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 御歌の内容から見れば、天智天皇崩御の後、倭姫皇后の御作歌と看做してよいようである。初句「青旗の」は、下の「木旗」に懸《かか》る枕詞で、青く樹木の繁っているのと、下のハタの音に関聯せしめたものである。「木幡」は地名、山城の木幡《こはた》で、天智天皇の御陵のある山科《やましな》に近く、古くは、「山科の木幡《こはた》の山を馬はあれど」(巻十一・二四二
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