》つ峯《を》に椎《しひ》蒔かば今年の夏の陰になみむか」(巻七・一〇九九)も椎《しい》であろうか。そして此歌は詠[#レ]岳だから、椎の木の生長のことなどそう合理的でなくとも、ふとそんな気持になって詠んだものであろう。
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天《あま》の原《はら》ふりさけ見《み》れば大王《おほきみ》の御寿《みいのち》は長《なが》く天足《あまた》らしたり 〔巻二・一四七〕 倭姫皇后
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天智天皇御|不予《ふよ》にあらせられた時、皇后(倭姫王)の奉れる御歌である。天皇は十年冬九月御不予、十月御病重く、十二月近江宮に崩御したもうたから、これは九月か十月ごろの御歌であろうか。
一首の意は、天を遠くあおぎ見れば、悠久にしてきわまりない。今、天皇の御寿《おんいのち》もその天の如くに満ち足っておいでになる、聖寿無極である、というのである。
天皇御不予のことを知らなければ、ただの寿歌、祝歌のように受取れる御歌であるが、繰返し吟誦し奉れば、かく御願い、かく仰せられねばならぬ切な御心の、切実な悲しみが潜むと感ずるのである。特に、結句に「天足らしたり」
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