に盛《も》る飯《いひ》を草枕《くさまくら》旅《たび》にしあれば椎《しひ》の葉《は》に盛《も》る 〔巻二・一四二〕 有間皇子
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有間皇子の第二の歌である。「笥」というのは和名鈔に盛食器也とあって飯笥《いいけ》のことである。そしてその頃高貴の方の食器は銀器であっただろうと考証している(山田博士)。
一首は、家(御殿)におれば、笥(銀器)に盛る飯をば、こうして旅を来ると椎の葉に盛る、というのである。笥をば銀の飯笥とすると、椎の小枝とは非常な差別である。
前の御歌は、「真幸《まさき》くあらばまたかへりみむ」と強い感慨を漏らされたが、痛切複雑な御心境を、かく単純にあらわされたのに驚いたのであるが、此歌になると殆ど感慨的な語がないのみでなく、詠歎的な助詞も助動詞も無いのである。併し底を流るる哀韻を見のがし得ないのはどうしてか。吾等の常識では「草枕旅にしあれば」などと、普通|※[#「覊」の「馬」に代えて「奇」、第4水準2−88−38]旅《きりょ》の不自由を歌っているような内容でありながら、そういうものと違って感ぜねばならぬものを此歌は持っているのはどうしてか。これは史実
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