はら》ねもころに奥をな兼ねそまさかし善《よ》かば (同・三四一〇)
上毛野《かみつけぬ》伊奈良《いなら》の沼の大藺草《おほゐぐさ》よそに見しよは今こそまされ (同・三四一七)
薪《たきぎ》樵《こ》る鎌倉山の木垂《こだ》る木をまつと汝《な》が言はば恋ひつつやあらむ (同・三四三三)
うらも無く我が行く道に青柳《あおやぎ》の張りて立てればもの思《も》ひ出《づ》つも (同・三四四三)
草蔭の安努《あぬ》な行かむと墾《は》りし道|阿努《あぬ》は行かずて荒草立《あらくさだ》ちぬ (同・三四四七)
ま遠《どほ》くの野にも逢はなむ心なく里の真中《みなか》に逢へる夫《せな》かも (同・三四六三)
佐野《さぬ》山に打つや斧音《をのと》の遠かども寝《ね》もとか子ろが面《おも》に見えつる (同・三四七三)
諾児汝《うべこな》は吾《わぬ》に恋ふなも立《た》と月《つく》の流《ぬが》なへ行けば恋《こふ》しかるなも (同・三四七六)
橘の古婆《こば》のはなりが思ふなむ心|愛《うつく》しいで吾《あれ》は行かな (同・三四九六)
河上《かはかみ》の根白高萱《ねじろたかがや》あやにあやにさ宿《ね》さ寐《ね》てこそ言《こと》に出《で》にしか (同・三四九七)
岡に寄せ我が刈る草《かや》の狭萎草《さねがや》のまこと柔《なごや》は寝《ね》ろとへなかも (同・三四九九)
安斉可潟《あせかがた》潮干の緩《ゆた》に思へらば朮《うけら》が花の色に出めやも (同・三五〇三)
青嶺《あをね》ろにたなびく雲のいさよひに物をぞ思ふ年のこの頃 (同・三五一一)
一嶺《ひとね》ろに言はるものから青嶺《あをね》ろにいさよふ雲のよそり妻はも (同・三五一二)
夕さればみ山を去らぬ布雲《にぬぐも》の何《あぜ》か絶えむと言ひし児ろはも (同・三五一三)
沼二つ通は鳥が巣|我《あ》がこころ二行《ふたゆ》くなもと勿《な》よ思《も》はりそね (同・三五二六)
妹をこそあひ見に来《こ》しか眉曳《まよびき》の横山|辺《へ》ろの鹿《しし》なす思《おも》へる (同・三五三一)
垣越《くへご》しに麦食むこうまのはつはつに相見し子らしあやに愛《かな》しも (同・三五三七)
青柳のはらろ川門《かはと》に汝を待つと清水《せみど》は汲まず立所《たちど》平《なら》すも (同・三五四六)
たゆひ潟潮満ちわたる何処《いづ》ゆかも愛《かな》しき夫《せ》ろが吾許《わがり》通はむ (同・三五四九)
塩船《しほぶね》の置かれば悲しさ寝つれば人言《ひとごと》しげし汝《な》を何《ど》かも為《し》む (同・三五五六)
悩《なやま》しけ人妻《ひとづま》かもよ漕《こ》ぐ船の忘れは為無《せな》な弥《いや》思《も》ひ増すに (同・三五五七)
彼《か》の児ろと宿《ね》ずやなりなむはた薄裏野《すすきうらぬ》の山に月《つく》片寄《かたよ》るも (同・三五六五)
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巻第十五
○
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あをによし奈良《なら》の都《みやこ》にたなびける天《あま》の白雲《しらくも》見《み》れど飽《あ》かぬかも 〔巻十五・三六〇二〕 作者不詳
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新羅《しらぎ》に使に行く入新羅使以下の人々が、出帆の時には別《わかれ》を惜しみ、海上にあっては故郷を懐《おも》い、時には船上に宴を設けて「古歌」を吟誦した。その古歌幾つかが纏《まと》まって載っているが、此歌もその一つで雲を詠じた歌だと注してある。一首は、奈良の都の上にたなびいて居る、天の白雲の豊大な趣を讃美した歌であるが、作者も分からず、どういう時に詠《よ》んだものかも分かっていない。ただ雲を詠んだものとして、豊かな大きい調子があるので吟誦にも適し、また奈良の家郷を偲《しの》ぶのにふさわしいものとして選ばれたものであろう。この新羅使は天平八年であるが、その時にもうこの歌の如きは古調に響いたのであったのかも知れない。此処に、人麿作五つばかり幾らか変化しつつ載って居り、左注でその事を注意しているところを見ると、この歌も、上の句の、「あをによし奈良の都に」の句は変化したもので、原作は、「奈良の都に」などでなく、山のうえとか海上とか、或は序詞などで続けたものか、そういうものだったかも知れない。いずれにしても、「天の白雲見れど飽かぬかも」の句は形式的な感じもあるが、なかなかよいものである。
○
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わたつみの海《うみ》に出《い》でたる飾磨河《しかまがは》絶《た》えむ日にこそ吾《あ》が恋《こひ》止《や》まめ 〔巻十五・三六〇五〕 作者不詳
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この歌も新羅使の一行が、船上で「古歌」として吟誦したもので、恋の歌と注してある。「飾磨《しかま》河」は播磨《はりま》で、今姫路市
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