も》解《と》き放《さ》けて寝《ぬ》るが上《へ》に何《あ》ど為《せ》ろとかもあやに愛《かな》しき」(同・三四六五)、「垣越《くへご》しに麦|食《は》む小馬《こうま》のはつはつに相見し児らしあやに愛《かな》しも」(同・三五三七)等の例がある。

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植竹《うゑたけ》の本《もと》さへ響《とよ》み出《い》でて去《い》なば何方《いづし》向《む》きてか妹《いも》が嘆《なげ》かむ 〔巻十四・三四七四〕 東歌
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「植竹の」は竹林のことで、竹の根本《ねもと》から「本」への枕詞とした。家じゅう大騒ぎして私が旅立ったら、妻は嘸《さぞ》歎き悲しむことだろう、というので、代匠記以来、防人《さきもり》などに出立の時の歌ででもあろうかといっている。この巻に、「霞ゐる富士の山傍《やまび》に我が来なば何方《いづち》向きてか妹が歎かむ」(三三五七)の例がある。この歌を私は嘗《かつ》て、女と言い争うか何かして、あらあらしく騒いで女の家を立退《たちの》く趣《おもむき》に解したことがある。即ち植竹の幹の本迄響くように荒々しく怒って立退くあとで、妹を可哀くおもって反省した趣にしたのであった。そして、「背向《そがひ》に寝《ね》しく今しくやしも」(巻七・一四一二)などをも参照にしたのであったが、今回は契沖以下の先輩の注釈書に従うことにしたけれども、必ずしも防人出立とせずに、民謡的情事の一場面としても味うことが出来るのである。

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麻苧《あさを》らを麻笥《をけ》に多《ふすさ》に績《う》まずとも明日《あす》来《き》せざめやいざせ小床《をどこ》に 〔巻十四・三四八四〕 東歌
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 麻苧《あさお》の糸を娘が績《う》んでいるのに対《むか》って男がいいかける趣の歌で、「ら」は添えたものである。「ふすさに」は沢山《たくさん》の意。巻八(一五四九)にある、「なでしこの花ふさ手折り吾は去なむ」の「ふさ」、巻十七(三九四三)にある、「我背子がふさ手折りける」の「ふさ」も同じ語であろうか。一首は、麻苧をそんなに沢山|笥《おけ》に紡《つむ》がずとも、また明日が無いのではないから、さあ小床《おどこ》に行こう、というのである。「いざせ」の「いざ」は呼びかける語、「せ」は「為《せ》」で、この場合は行こうということになる。「明日きせざめや」を契沖は、「明日着セザラメヤ」と解《と》いたが、それよりも「明日来せざらめや也。明日来といふは、凡《すべ》て月日の事を来歴《きへ》ゆくと言ひて、明日の日の来る事也」という略解《りゃくげ》(宣長説)の穏当を取るべきであろう。これも田園民謡で、直接法をしきりに用いているのがおもしろく、特に結句の「いざ・せ・小床に」というのはただの七音の中にこれだけ詰めこんで、調子を破らないのは、なかなか旨《うま》いものである。

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児《こ》もち山若《やまわか》かへるでの黄葉《もみづ》まで寝《ね》もと吾《わ》は思《も》ふ汝《な》は何《あ》どか思《も》ふ 〔巻十四・三四九四〕 東歌
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「児持山」は伊香保温泉からも見える山で、渋川町の北方に聳《そび》えている。一首は、あの子持山の春の楓《かえで》の若葉が、秋になって黄葉《もみじ》するまでも、お前と一しょに寝ようと思うが、お前はどうおもう、というので、誇張するというのは既に親しんでいる証拠でもあり、その親しみが露骨でもあるから、一般化し得る特色を有《も》つのである。「汝は何《あ》どか思ふ」と促すところは、会話の語気その儘《まま》であるので感じに乗ってくるのである。「吾をぞも汝に依《よ》すとふ、汝はいかに思《も》ふや」(巻十三・三三〇九)という長歌の句は、この東歌に比して間が延びて居るように感ずるのである。

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高《たか》き峰《ね》に雲《くも》の着《つ》く如《の》す我《われ》さへに君《きみ》に着《つ》きなな高峰《たかね》と思《も》ひて 〔巻十四・三五一四〕 東歌
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 高い山に雲が着くように、私までも、あなたに着きましょう、あなたを高い山だとおもって、というので、何か諧謔《かいぎゃく》の調のあるのは、親しみのうちに大勢してうたえるようにも出来ており、民謡特有の無遠慮な直接性があるのである。高峰を繰返してもいるが、結句の「高峰ともひて」には親しい甘いところがあっていい。

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我《あ》が面《おも》の忘《わす》れむ時《しだ》は国《くに》溢《はふ》り峰《ね》に立《た》つ雲《くも》を見《み》つつ偲《しぬ》ばせ 〔巻十四・三五一
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