奥深い幾重の山の遙《はる》か向うに淡路島《あはぢしま》の横《よこた》ふのも見ようともせず、あの大名の墓石《ぼせき》のごたごたした処を通り、奥の院に参詣して半日つぶして直ぐ下山して居る。道中自慢であつた父も、その時は既に六十四五歳になつて居り、四十歳ごろから腰が屈《まが》つて、西国《さいこく》の旅に出るあたりは板に紙を張りそれを腹に当てて歩いてゐた。さうすれば幾分腰が延びていいなどと云つてゐたのだから、高野の旅なども矢張り難儀であつたらうと僕はおもふ。そして、僕らが食べたやうな、汁の中にしよんぼりと入つた饅頭《まんぢゆう》を父も食べたのだらうとおもふと、何だか不思議な心持にもなるのであつた。これを「念珠集」の跋《ばつ》とする。(大正十五年二月記)
底本:「斎藤茂吉選集 第八巻」岩波書店
1981(昭和56)年5月27日第1刷発行
初出:「改造」
1925(大正14)年11月、1926(大正15)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:kamille
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年1月7日作成
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