支流
齋藤茂吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)一《ひと》ところ

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)途中|猿羽根《さばね》峠
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 此方から見ると対岸の一《ひと》ところに支流の水のそそいでゐるのが分かる。其処迄は相当の距離があるので、細部は見えないがやはり一つの趣があるやうに見える。即ち、直線的な一様な対岸が其処で割れてゐるのだから、割目の感といつたらよいかも知れない。併しその支流は極めて小さいもので、人々の注意する程度にも至つてゐない。
 晩秋のある日、自分は病後の体を馴らすために、対岸、つまりその支流のそそいで居る側の岸近くを歩いて、桐の木だの、胡桃の木だの、その他の雑木のあるところの日陰に腰をおろして休み休み、なほ歩いて行つた。自分は腰をおろして休むと眠気が出る、さういふ時にはうたたねをする。もう冬外套を著てゐたので、顔をひくくして外套の襟のところにうづめるやうにして眠る、十五分間も眠ればまた起きて歩みだすといふ具合である。歩く道は極めて細いけれども、兎も角農民がその道に頼つて歩くと見えて辛うじて道の形態をなしてゐる
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