つた。それ以前にも『開化新題』の和歌といふものがあつたけれども、それと子規の新派和歌とは違ふのである。
『若人《わかひと》のすなる遊びはさはにあれどベースボールに如くものもあらじ』。これはベースボールといふ遊戯全体を讚美したものである。
『国人ととつ国人と打ちきそふベースボールを見ればゆゆしも』。競技が国内ばかりでなく、外国人相手をもするやうになつたことを歌つたもので、随筆に、『近時第一高等学校と在横浜米人との間に仕合《マツチ》ありしより以来ベースボールといふ語は端なく世人の耳に入りたり』云々ともある。
『打ち揚ぐるボールは高く雲に入りて又落ち来る人の手の中に』の結句『人の手の中に』はベースボール技術を写生したのであつた。『今やかの三つのベースに人満ちてそぞろに胸の打ち騒ぐかな』は、ベースといふ字をそのまま使つてをり、満基(フルベース)の状態を歌つたもので、人をはらはらさせる状態を歌つてゐる。一小和歌といへども、ベースボールの歴史を顧れば感慨無量のものとなる。
底本:「日本の名随筆 別巻73 野球」作品社
1997(平成9)年3月25日第1刷発行
底本の親本:「斎藤茂吉全集
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