三年
斎藤茂吉

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)然《しか》も

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山形県|上山《かみのやま》町に
−−

 三年と云つても、この三年といふものは、三十年ぐらゐの気持であつた。荷作したまま荷が動かず、紹介してもらつた丸通の課長でさへ、『斎藤さん、もう手おくれですよ』などと云つたほどであつた。
 渋谷駅に行つて見ると、いはゆる『疎開荷物』といふものが小山ほどに積まれて居る。然《しか》もこの小山ほどといふのは、誇張でない、ぎつしりと隙間《すきま》のないまでに積まれてゐるので、自分は来る度毎《たびごと》に驚き愕《おどろ》いたものである。なぜ驚いたかといふに、まさかこれほど沢山の荷物が集まつて居るとは、想像もしなかつたからである。いつたいこんなに沢山に集まつてゐる荷物はどうして動くのだらうか。空襲は日毎時毎に劇《はげ》しくなつて来る。このまま空襲に会つたら、尽《ことごと》く焼けてしまはねばならぬのである。愕くのはさういふ点にもあつた。そこへ次から次へと荷を満載したトラツクが来る。荷を満載した馬車が来る。汗みどろになつ
次へ
全9ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング