。私は先輩の医員の後ろの方から、先生の如是《かくのごとき》態度を覗見《のぞきみ》ながら、先生の「問診」がすなわち既に「道」を楽しむの域に達しているのではなかろうかなどと思ったことを今想起する。私は先生の教室に入れていただいてから、既に十年を経過した。先生|莅職《りしょく》廿五年の祝賀会を挙ぐるにあたって、先生の偉大さ先生の本質を申す者には、同門の先輩中その人に乏しくはない。門末の私が先生について敢《あえ》て論讚にわたる言をなすのは、おのずから僭越《せんえつ》の誚《しょう》を免れず、不遜の罪を免れぬであろう。私はただ少年時における私の心持を想起し、それを記して、謹んで先生を祝福する。(この文章は大正十年二月長崎において稿を起し、十一月一日熱田丸船上にて書おわったものである)
底本:「日本の名随筆 別巻43 名医」作品社
1994(平成6)年9月25日第1刷発行
1999(平成11)年8月25日第2刷発行
底本の親本:「斎藤茂吉随筆集」岩波書店
1986(昭和61)年10月初版発行
※二行に渡り小書きになっている箇所は、〈〉で囲いました。
入力:門田裕志
校正:氷魚
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