《かつ》強ク、臓腑|善《よ》ク発達スルモノ之《これ》ヲ強壮ノ体質トシ、之ニ反スルヲ羸弱《るいじゃく》ノ体質トス」などというが如きものであって、いまだ見ぬ著者呉先生を欽慕《きんぼ》する念の募りいたることは推するに決して難くはない。
 ある時また私は、『人体ノ形質生理及ビ将護』という合本講義録を買い得た。どこの講習会で講ぜられたものか。明治何年ごろに講ぜられたものか。もはや今の私には分からないが、はじめの方で男子の形態を記載した条《くだり》に、「稜々《りょうりょう》トシテ鋭シ」の句があり、脳髄を説かれた条に、「大脳ハ精神ノ物質的代標タリ」とあるのを、私は忘れずにいた。今春呉先生を祝いまつる会に参列するために、私は東京に帰って来て、中学校時代のいろいろの書物をさがしたが、大方は売ってしまっていたのに、不思議にもこの講義録は行李《こうり》の隅の方から出て来た。そこでしらべてみると、「女子ニハ皮膚下ノ脂肪|富贍《ふせん》ナルガ為ニ形態豊満ニシテ、男子ニハ筋肉腱骨ノ強大ニシテ挺起《ていき》スルガ為ニ其形態稜々トシテ鋭シ[#「稜々トシテ鋭シ」に白丸傍点]」という文章であった。いまだ少年であった頃の私
前へ 次へ
全11ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
斎藤 茂吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング