くさり》をはずさせて、みな別べつの牢獄へ入れさせた。
 翌朝、Z伯爵は村びとを召集して、その面前でジプシーらには罪のないことを宣告した上、自分の領地の通過券を渡してやったが、その解放されたジプシーの一団のうちには、かの真っ赤な肩掛けを着た老婆の姿は見えなかった。きっと金鎖を頸《くび》に巻いて、スペイン風の帽子に赤い羽をつけているジプシーの親方が、前の夜ひそかに伯爵の部屋を訪問して、伯爵に頼み込んだのであろうと、村びとらはささやき合っていた。実際ジプシーらが去ってのち、かれらは殺人でも窃盗でもないことが分かった。
 ガブリエルの結婚式の日はいよいよ近づいてきた。ある日、中庭へ数台の荷馬車を挽《ひ》き込んで、それに家財道具や衣裳類を山のように積んであるのを見て、ガブリエルはびっくりした。次の日、Z伯爵はいろいろの事情から、アンジェリカがX市の別邸に自分ひとりで暮らしたいという申し出でを許したということを、ガブリエルに言って聞かせた。伯爵はその別邸を姉娘にあたえ、家族の者はもちろん、父の伯爵でさえ彼女の許可なくしてはその別邸へ出入りをしないということを、彼女に誓った。それからまた伯爵は、彼女の切《せつ》なる願いによって、自分の家僕を彼女の家事取締りのために付けてやることをも承諾した。
 結婚式は無事に済んだ。エドヴィナ伯爵と花嫁のガブリエルは自分たちの邸で水入らずの幸福な生活を営んだ。ところが、不思議なことには、何か秘密な悲しみが生命をむしばんで、快楽と精力とを奪い去ってゆくかのように、エドヴィナ伯爵の健康は日ごとに衰えてきた。新妻のガブリエルは夫の心配の原因をどうかして探り知ろうとして、あらゆる手段を尽くしてみたが、それはみな徒労であった。そのうちにエドヴィナ伯爵は、このままでは自然に喰い入ってくる呪《のろ》いのために執《と》り殺されてしまうのを恐れて、医者の指図するがままに断然その邸をあとにして、ピザへ出発した。そのおり彼の新妻は身重であったので、夫と一緒に旅立つことが出来なかった。
「以上はガブリエル夫人が私に打ち明けた物語であるが、それはあまりに狂気じみているので、よほど鋭い観察力をもってしなければ、話の連絡をつかむことが出来ないくらいであった」と、博士は注を入れて、また話した。
 ガブリエル夫人は、夫の不在中に女の子を生んだが、間もなくその赤ん坊は邸内から何者に
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