あ、うちのみきね、あれも困りものだ。それに」といいさして、老顔に深い皺《しわ》を寄せる。いつにない父のうち解けようである。みきというのは継母の名である。鶴見は父のこの言葉を聞いて、その先きを恐れた。その先を聞くというのは如何《いか》にも辛《つら》かった。鶴見にはおおよそのことは分っている。それで別事にまぎらして、その話はそれなりに伏せてしまった。父親にはどこか女嫌いというところも見えていた。そんなこともあったのである。
 父親は七十の古希に、国許《くにもと》で同士集まって、歌仙であったか、百韻であったか、俳諧を一巻き巻いた。それを書物にして配りたいという。書物は『八重桜』といった。鶴見が受合って、印刷させて、和綴《わとじ》の小冊子が出るようになった。端書《はしが》きも添えておきたいという。鶴見が代筆をして、一枚ばかり俳文めいた文章を書いた。父は鶴見の文章を読んで、はじめて子供の文才を知って、少しは心を安めたようであった。鶴見はそれがうれしかった。

 性慾の磁気嵐、人生の球体面に拡大する黒点、混迷と惑乱のみなもと、それもいつしか過ぎ去った。
 鶴見はこういうことを夢みている。今一度童子
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