ん》をしていた。机の上には開かれた一冊の書物が載っている。鶴見はその本の中で、南欧の美しい風景を心ゆくばかり眺めている。海のあなたにはあの有名な活火山が隠さねばならぬことが世にあろうかとばかり、惜しげもなく全姿をあらわした。その巓《いただき》から吐き出す煙が風に靡《なび》いて静かに低く流されてゆくのがよく見える。悠々《ゆうゆう》たる思いがする。ここの海港の盛り場は殊の外|賑《にぎ》わしい。ナポリである。鶴見はその本の訳者とともにナポリの町をさまよい歩いて、情熱のにおいを嗅《か》いでみる。
その時であった。鶴見が離れようとすればするほど纏《まとわ》りついてくる女の執拗さにあきれて、女の媚《こび》には応諾《おうだく》も与えずに、押黙って本を見ていた。女は激しい痙攣《けいれん》でも起したかのように、顫《ふる》える手にいきなり鶴見の見ていた本を取り上げて、引き破って、座敷の隅《すみ》に放りやった。
鶴見は女の行為に全く呆気《あっけ》にとられてしまって、咄嗟《とっさ》に言句も出ない。それから後どうしたかも知らない。それでいてその折読みさしていた書中の条下はよく覚えている。その一章には「人火天
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