は人と荷物で混雑を極《きわ》めている。
「こんなところへ小供を連れて遣《や》って来てはあぶない。」父であったか他の人であったかわからなかったが、叱るようにいう。
すごすごとまた同じ車でもとの河岸ぷちの家に戻る。そうこうするうちに日が暮れて来る。二階の窓から向うを見る。昼間煙の簇々《そうそう》と立っていたその方角の空を、夜に入って、今度は火焔が赤々と染める。とうとう不安のうちに一夜をその家で過ごすことになった。これが恐らくは、母の膝に乗り腕に抱かれていても、なお人生には不安のあることを識《し》ったはじめであったろう。
その三つ。突如として大きな音響が聞える。それと同時に、玉屋《たまや》鍵屋《かぎや》の声々がどっと起る。大河ぶちの桟敷《さじき》を一ぱいに埋めた見物客がその顔を空へ仰向《あおむ》ける。顔の輪廓が暫《しばら》くのあいだくっきりと照らし出される。天上の星屑の外《ほか》に、人工の星が閃光を放って散乱し爆発する。それを見るために集った人々である。こまかい花火の技巧を鑑賞するのでは素《もと》よりない。玉屋鍵屋の競争もその頃は既になくなっていたと考証家はいう。しかしそんなことはどう
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