けはその通りであったと認むるより外はない。
しからばおれの母は何であったろう。鶴見はこれまでも、幾百たびとなく、その事を思ってみた。彼の脳裡には、絶えず、往来する影がある。その影は解決を得ない不安をにれ噛《か》んで、執《しゅう》ねくも離れようとしない。それが殆ど彼の生涯にわたっているのである。
考えれば考えるほど胸が痛む。鶴見は堪えられなくなった。はっきりとはおぼえていないがもはやそれから十年は立ったであろう。その彼にも、その苦痛を、冷静に、淡々たる一句に約《つづ》めて表現し得る或る日が到来した。少しばかりの余裕が心の中に齎《もたら》した賜物《たまもの》といっても好い。鶴見にはその日にはじめて発心《ほっしん》が出来たのである。
「おれの母は凡庸な世の常の女であった。それに違いはあるまい。しかしそうであったとしたところで、その母をなんといって、おれにも分り他にも分るようにさせたら好いであろうか。――おお、それ市井の女[#「市井の女」に傍点]。」
市井の女。ただ一句である。鶴見はこの一句のために、その一生を賭けていたといっても好い。人知れぬ痛苦は彼の心身を腐蝕していた。そして歪められ
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