長谷川二葉亭
蒲原有明

−−
【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)その風※[#「蚌のつくり」、第3水準1−14−6]に
−−

 長谷川二葉亭氏にはつい此あひだ上野精養軒で開かれた送別會の席上で、はじめてその風※[#「蚌のつくり」、第3水準1−14−6]に接したぐらゐであるから、わたくしには氏に對して別に纏つた感想などのありやうもない。だが、質素な身なりと、碎けた物言ひぶりと、眉根に籠つた深く暗い顰みと、幅のある正しい肩つきと、これだけがわたくしの二葉亭氏から最初に受けた消し難き印象である。この印象のうちにも、仔細にたづねて見れば、二葉亭氏の半生の謎がどこかに隱されてゐるやうに思はれる。
 二葉亭氏は實際謎の人と云つてよいであらう。今から二昔も前にあの名高い「浮雲」を書いた。明治文學史上の謎がこゝに始まつたのである。新文藝の曙光だと手早く云つてしまへばそれまでの事であるが、それにしては餘りに陰氣な曉の光景ではなかつたらうか。それから一昨年「その面
次へ
全5ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング