タアシイ古橋のシルウェットを月夜の灰碧の空氣の中に捉へた畫人は廣重の版畫に對する鋭い感覺で張りきつてゐる。更にまたクレモン・ガアデンスの煙火戲の夜、崩れ落ちる五彩陸離たる火光を、いみじくも繋ぎとめた「黒と金とのノクタアン」を見よ。老ラスキンをして理性を失はしめた前代未聞の藝術がこゝにある。
官能の音樂、神經の詩がこれ等の夜曲の中に顫へてゐる。
わたくしは好んでホヰスラアの描いた藝術の氣分を想像の綾に織りまぜて置いて、これを鑑賞すると共に、飜つて廣重の古調をなつかしむ。
純藝術はどこまでも異端である。花火の畫を描いたホヰスラアは世間から山師と呼ばれてゐた。
「世俗と歡樂の途を異にしたこの人――異常なる模型の案出者――例へば火花に照らし出された顏面の如き奇趣ある曲線を、身邊に於ける自然の中に認めた人――この超然たる夢想家こそは第一の藝術家であつた。」―― Ten o'clock.[#地から2字上げ](明治四十三年)
底本:「日本現代文學全集 22 土井晩翠・薄田泣菫・蒲原有明・伊良子清白・横瀬夜雨 集」講談社
1968(昭和43)年5月19日初版発行
1969(昭和
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