た。わたくしはまた徐ろに幻想の花園を徘徊しよう。
 Fleur Mystique ――これはギュスタアヴ・モロオの圖題の一つだ。神祕なる花卉の中には各時代の耽美性によつて代表された百合の花の屬や向日葵を數へあげることが出來る。わたくしは更にモオリス・マアテルリンクの Serres Cnaudes をそつと窺つて見る。よくは見極められぬが、月光に育まれた奇異な草木の花葉から蒼白いさざめきの聲が起る。こゝにもあのラファエル前派の蘭のにほひが幽かに顫へてゐるらしい。歩を轉ずればシャルル・ボオドレエルの Fleur du Mal ――こゝに到つては言葉を知らない。爛れた落日の光に照らし出される肉慾の精神、宿業の重い霧のメランコリア、執著の火むらから生じた摩訶鉢特摩。――何とでも云へるが何事も云へないのである。
 それは兎に角、わたくしは、あの寶石の情調を解した色彩家、ギュスタアヴ・モロオはまさしく仙人掌の愛好者であつたといふことを、こゝに書き添へて置きたい。
 わたくしは世俗のかげにかくれて、をりをり植物園に出掛けることがある。それはその園内にある温室の、しかも仙人掌を蒐集したその一隅に心が牽
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