。
小山内君には詩集一册がある。「小野のわかれ」である。明治三十八年九月刊行の原本はすでに珍本の部類に屬し、古書肆の目録にも絶えて出て來ない。その詩集中の一篇「月下白屋」は小山内君がその特色を殘すところなくあらはした傑作である。
この文のはじめに句を拔いて例證に擧げたちなみにより、そのシエレエの詩の謝豹譯「音樂」をこゝに附載しておく。これも切拔から轉寫する。
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わが靈(たま)は魔に醉ふ舟か、
夢を見る鵠(はくてう)の如。
爾(なれ)が歌たくみに唱(う)たふ
しろがねの波に浮べり。
風毎に調をなして、
見も知らぬ鈴振る際(きは)に、
なれはまた天使の如く、
舵に倚り舵を操る。
この舟よ、ときはに浮かめ。
この舟よ、かきはに浮かめ。
山、柯(こむら)、ま淵の間(かひ)を、
曲(うね)多き川瀬の面に。
そは人香まれなる樂園(みその)!
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底本:「明治文學全集 99 明治文學囘顧録集(二)」筑摩書房
1980(昭和55)年8月20日初版第1刷発行
底本の親本:「飛雲抄」書物展望社
1938(昭和13)年12月10日
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