味をもつてゐるのですが、何でもホトトギスの異名だといふことです。暢氣な話ですが序だからこゝに言ひ添へておきます。
 そんなことからおたがひに頻りと往來するやうになつて、だんだん親しくつき合つてみると、このわかい謝豹君がよほど前から鶯亭金升に師事して東亭扇升の名まで貰つてゐることがわかり、その意表外の事實にわたくしはちと驚かされました。鶯亭金升と内村鑑三とでは少し矛盾があるやうに考へられたからです。
 小山内君はその時分から、羨ましいほどの藏書家で、熱心な讀書子で、その智識の範圍は廣く多方面に亙つてゐたといつてよいのでせう。その上にはやく歿くなつた巖君の派手で寛濶であつた情趣生活が、その餘香を君の身邊に、君の書齋の調度のたぐひにまでとどめてゐたことを想起してみて、さういふ雰圍氣の中にわかい謝豹君を置いてみることが、わたくしに取つてはいかにもなつかしい。その書齋にこもつて、どこか圭角があり矜持するところの高かつた秀才がシエレエの詩集を耽讀してゐる。※[#「木+眉」、第3水準1−85−86]間には矢張おなじ詩人の處女のやうな風貌をもつた肖像の額面が懸つてゐる。わたくしの記憶は次から次へその當
前へ 次へ
全7ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蒲原 有明 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング